ぼくたちは、
「今」だけを生きているんじゃない。

ぼくたちの未来は、全てがリセットされ、全く新しくなった世界ではない。ぼくたちの未来は、「これまで」の時間、事を積み重ねてできている。だから、ぼくたちはもう少しそのことを意識し、感じるときがあってもいいはずだ。前だけ見て生きるなんてできない。ふり返るときがあってもいいはずだ。簡単に「これまで」を使い捨てず、大切にしたい。「これまで」ってそんなに安易なものじゃないはず。モノも、家も、ひょっとすると町も。簡単に新しいものに置き換えるだけではなく、その存在を大切にし、壊れ傷んだら手入れをし、その痕跡と共につきあっていく。それは、新品のように完璧じゃないかもしれない。でも、そうして使われるもの、場所には、ひとの思いが積み重ねられそれ自体が記憶装置となり、ぼくがぼくである事を思い出させてくれる力が宿る。ただただ、新しい何かにのみに未来があるのではなく、「これまで」を感じ、 その上で新しい何かを積み重ねていくことでぼくたちは進化し、ぼくたちの未来がある。

 
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(C) Syd Mead "tomorrowland"


サイボーグ化という考え方

「これまで」を新しいもので強化する

できるだけ、「これまで」の本来持つ意味/意義を尊重し、損なう事無くその上で新しい時代でいきていくために、新しい部分によって「これまで」を強化する。サイボーグ化。そこには新しい価値が生まれる。


 

じっかの「これまで」

そこは、京都の町家。
大正12年頃にぼくのひいおばあちゃんが建てたらしい。
ぼくが小学校になるときまでは、ここで商売を続けていたが、ぼくの両親が継ぐことなく、その後はぼくたち家族の住処となった。
家の殆どはお座敷によって占められていたが、母たちの成長と共におばあちゃんがモダンな生活空間を継ぎ足していった。ぼくたちが一緒に生活し始めてからも少しずつ改造していたが、その改造によって、庭には陽が入りづらくなり、庭を明かり取りにしていた一階の部屋は、暗く沈んだ感じになった。
また、風通しにも影響し、おばあちゃんご自慢の一つであったキッチンをはじめとする水まわりの空間は傷みが増していった。
ぼくは、大きくなり家を出、おばあちゃんはこの世を去って、父と母と妹家族が暮らし始めるが、甥や姪が家族に加わった事も有り家はいろんなもので溢れる。
そして母が病気となり、行く行くは車いすの生活となることが告げられると、家の色々な部分の不都合が気になり出した。 おばあちゃんの最後をこの家で看取れなかったことを悔やんでいたぼくたち家族は、母が、自分が育ち、みんなの記憶の詰まったこの家で、なんとか最後まで過ごせるようにと サイボーグ化する事を決心した。


強化プラン

【基本方針】

ぼくたち家族が育ったこの場所/空間を可能な限り、その印象を変える事無く、家族の「これから」の日々が豊かに積み重ねられるように 新しい部分を継ぎ足し、強化する。

【とりのぞくところ/のこすところ】
  • 建立当初から変わらずある部位は、できるだけ残す。
  • 傷みの激しい部分は、取り除く。
  • おばあちゃんが、生活の為に後から造り足していった部位は、取り除く。
    ただし、おばあちゃんの思入れが強い箇所は、その要素を抜き出し、再利用を試みる。
【新しく必要な機能】
  • これから、病気によってますます身体の動きが制約される母の介護の為に、一階で母が全ての生活を送れるようにする。
  • 一階に母の部屋をつくる。
  • そして、母の部屋を中心とした、水まわり(トイレ、風呂、洗い場)の再レイアウト
【その他】
  • 家の「これまで」の部分が、ぼやけないように 「これまで」のところと新しい部分の境界は、曖昧にせず、明確に区切る
  • 新しい部分も「これから」を担えるような材料/構法を検討する。(予算の範囲で。)

解 体

大手術のはじまり

どこまでとりのぞくか、それが問題だ。
計画では、ある程度考えていたものの、実際解体が始まると予定通りにはいかない事が出てくる。
そもそもあらゆる場所におばあちゃんの改造の魔の手がはいっていて、もともとの姿を知らないぼくたちにとっては、その場その場手探り状態で進めざるを得なかった。
また、できるだけ趣を残す事を目標とし、象徴的な壁、天井、柱を残さんがために、解体作業は、重機を用いる事無く、大工さんのその手で、ひとつひとつ丁寧に取り除いていってもらった。
もちろん、大工さんが普段なら「きたない」と判断し取り除いていたところも、大切な「これまで」の要素として設計チームに一カ所ごとに確認。
大工さん 「え、ここも残すの?」
ぼくたち「はい」
大工さん 「‥‥」

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解体してみると管柱ばかりで、当初間引けると考えていた柱に荷重が思いもよらぬ荷重が掛かっていたりと、計画の再調整を余儀なくされた。ただ、これまで、傾くなどの構造的トラブルが無かったというのは、さすが、昔の大工さんたち、しっかりしたものを作ってくれていた。

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おばあちゃんの改造によって覆い隠されいた、ぼくたちの知らない家の部分が露に。 押入れだと思っていた所から見た事の無い廊下。キッチンの場所はもともと通り庭だったと聞いていたが、取り除くとそこから井戸やおくどさんの跡が。子ども部屋になっていた、通り庭の上部は子ども部屋ができる前は吹抜だった。

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「これまで」で残すところは、丁寧に養生。もともと使っていた障子も「これから」も使いたいので、鴨居も敷居も残してもらう事に。ああ、たいへん。

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おばあちゃんが自分のために作った二階の和室は凝った造りだったが、一階に陽の光が入らぬ大きな要因でもあったので、泣く泣く撤去。ただ、其所で使われていた網代天井は、なんとか次の新しい空間でも活かせるように、そろりそろりと切り抜き出してもらった。なんと、そこの網代は、一枚一枚現場で編まれていたもの。


工事中

オペ中

工事のが始まると、「これまで」の部分と新しい部分との取り合い/納まりにみんなで頭を悩ます羽目に。 どうしても年月を経て、垂直、水平が出ていない「これまで」の部分にいかに新しい部分を継ぎ、入れ籠むか。 設計と職人さんが、けんけんがくがく、力を合わせてひとつずつ処理していった。

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「これまで」押入れだったところに新しいスペースを入れ籠む準備。これまでの柱、梁、天井と新しい枠とのすり合せは「すぽっとはまり込んでいるように」という感覚的な言葉を大工さんの見事な腕ですすめてくれた。

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“図面通り“とはいかないもの。でもちゃんとイメージに近い仕上がりを実現するために、現場の材の表面には幾度となく悩んだ跡(スミ)が。

 

 

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新しい部分も「これから」の日々を刻んでいけるようにと材の選定の目も真剣です。 新しく挿入されるキッチンの床材のヒノキ板を一枚一枚選別し、「これまで」のところとアンバランスにならぬ様、選りすぐっていってくれている。

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「これまで」の部分で残しておきたいところで傷んでしまっているところは、これまで通りの手法で補修。左官職人さんのおかげで庭の漆喰壁も、以前の白さを取り戻した。


手術完了

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一階 居間。「これまで」の床の間と新しい母の居場所

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ダイニング奥は、元々押入れのスペースに冷蔵庫/パントリースペースを挿入

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新しいダイニングとキッチン。その奥には、「これまで」のふすま。
手前には、新しい収納スペース。新しい補強構造が露になっている。

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新しいキッチン。じつは、イケアのベースを使って仕上げ材を別につくったそこそこの予算で雰囲気のあるオーダーキッチンのできあがり。

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床の間の向かい側。床の間と対照的になるように整えた。

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居間から母の部屋に行く前にある洗面台。高さを車いす専用にした。

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母の部屋から、居間を望む。将来に備えて、トイレにも行けるようにしてその向こうの浴室まで一直線に移動が可能。

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妹家族の部屋。ちらりと見える「これまで」が部屋に趣を与える。


それは、
永遠じゃないかもしれないけど。

形有るものは、いつの日か朽ち果てこの世から消え去るであろう。 それは、この家も例外ではない。
ただ、今は、
ぼくたち家族は、この家を残し、これからもここで日々を積み重ねていきたいという思いがある。
その思いが、家族との日々を次の糧とせんする思いが、家族の中で生き続ける限りはまた、この家が傷み、少しずつ形を変えようとも、できるだけその本質を変える事無く引継がれるはずだ。
「この家は残しなさい。」とは、言うのではなく、
残したいという思いが、こどもたちに生まれるような場所であるように努めたい。
良いものだから残るのではない。みなの思いがあるからこそ、残るのだ。
うれしい事に、この家に住む小学生の姪と甥は、
早速、この家に住む権利をかけてジャンケンしていた。


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